大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 平成2年(行ツ)84号 判決

兵庫県尼崎市塚口町二丁目四六の一

上告人

藤原明

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 植松敏

右当事者間の東京高等裁判所平成元年(行ケ)第一三七号審決取消請求事件について、同裁判所が平成二年二月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 角田禮次郎 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 橋元四郎平)

(平成二年(行ツ)第八四号 上告人 藤原明)

上告人の上告理由

一 特許庁および東京高等裁判所における手続きの経緯

上告人は、発明の名称を「垢滓を除き節湯する浴槽」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、昭和五五年六月二日特許出願(昭和五五年特許願第七四七五三号)をしたところ、昭和六三年四月一九日に拒絶査定を受けたので、同年六月二五日、これに対し審判の請求をした。

特許庁は、右請求を同庁同年審判第一一三九一号事件として審理した上、平成元年四月二五日、「本件審判の請求は成り立たない」旨の審決をし、その謄本は、同年六月一五日、上告人に送達された。

上告人は右、特許庁が平成元年四月二五日に「昭和六三年審判第一一三九一号事件についてした審決を取り消す」との主旨の訴へを平成元年六月二九日東京高等裁判所に提出した。

東京高等裁判所は平成元年行ケ第一三七号審決取消請求事件として審理した上、平成二年二月二八日「原告の請求を棄却する」旨の判決があり(以下、「本件判決という。」その謄本は平成二年三月二日上告人に送達された。)

二 本件発明の要旨

浴槽外に還流流路を備えた浴槽であって、還流流路の一端である浴槽より溢れ出る湯水の取り入れ口を浴槽上端に設け、取り入れ口より収容された湯水は還流流路の途中に設けた濾過板を通過したのち還流流路の他端の浴槽上部に位置させた還流口を経させて自動的に元の浴槽内に戻ることを特徴とする垢滓を除き節湯する浴槽。

三 本件判決の理由の要点

1 出願の日は一項のとおり、本願発明の要旨に二項のとおりである。

2 なお、審判請求人(原告)は、審判請求書における請求の理由の欄において、「本願発明は引用例のようなポンプを用いるものでもなく、何ら外部エルギーを必要としない」旨述べているが、本願発明を実施するにおいて、外部エネルギーの導入なしに湯を還流することはできず、本願の明細書及び図面の記載からみて、還流流路に湯を還流させるための例えば動力装置等が設置されている結果湯の還流が実施されるものと認める。

3 ところで、査定手続における拒絶の理由に引用されたた刊行物である、実願昭五〇-一三八〇六号(実開昭五一-九六七二〇号)の願書に添附した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム(以下「引用例」という。)には、一定の湯温を保持し、かつ入浴中の湯垢を除去することを目的として浴槽内に上部吸込口及び下部吐出口を備え、吸込口と吐出口とを管等で連通し、その連通部に脱着可能なろ過器及び循環用ポンプを装備した浴槽が記載されている。

4 そこで本願発明と前記引用例記載の考案(以下「引用考案」という。)とを比較する。

まず、両者の用語を整理すると、引用考案における吸込口、吐出口は本願発明における取り入れ口、還流口にそれぞれ相当するものと認められる。そして両者は浴槽内の垢滓を除くために、浴槽外に還流流路を備え、取り入れ口より収容された湯水は還流流路の途中に設けた濾過装置を通過したのち還流口より浴槽内に戻すようにした点で一致し、ただ、一本願発明は取り入れ口を浴槽の上端に設けたのに対し、引用考案は浴槽の上部としている点、二本願発明は還流口を浴槽上部に位置させているのに対し、引用考案は浴槽の下部に設けている点で一応相違している。

5 次にこれらの相違点を検討する。

(一)について

引用考案は前記の構成とすることにより、湯の上面部に浮遊する垢滓を除去することは明らかであり、特にこれを浴槽より溢れ出る湯水を対象として、本願発明の如く、取り入れ口を浴槽の上端に設けるような構成とする点には、格別の困難性は見出せない。

(二)について

引用考案はその目的において、湯垢の除去という本願発明の目的以外に、浴槽内において常時一定の湯温を保持するという目的をも有しており、その結果還流口を浴槽下部に設けたものであって、単に湯垢の除去という目的のみの場合には当然に浴槽上部に還流口を設置するよう構成することは普通に考えられることである。

6 以上のとおり相違点(一)、(二)に格別のものがなく、又これらの相違点を総合勘案しても特にすぐれたものは見出せず、本願発明は、引用考案及び周知の技術的事項に基づいて当業技術者が容易に発明することができたものと認められるから、特許法第二九条第二頂の規定により特許を受けることができない。

四 判決を取り消すべき事由

判決の要点-および3は認める。同2および4、5は全て争う。判決は外部エネルギーなしでは湯水は還流しないと断定しているが、これは明らかな誤った判断であり且その事由はこじつけと詭弁である。(取消事由(1))

また引用考案の技術と周知技術について十分な理解をせず且、拡大に解釈して本件発明がこれらの技術に基づいて容易に発明をすることができなかったのにこれを認めず進歩性の判断を誤ったものである。(取消事由(2))

一 取消事由(1)について

本願発明は入浴したとき浴槽より溢れ出る湯水が浴槽上端に設けた取り入れ口より浴槽外側に設けた還流流路を通じ垢滓を除きのち元の浴槽に戻すものであるが、本件判決は外部エネルギーがないと湯水は還流しないし、還流はできないと断じている上、本願発明は動力装置等によって自動的に湯水を還流させるものであると断言しているが、本願発明は浴槽上端より湯水が溢れ出た場合であり、浴槽の湯量が少なく溢れ出ない場合は還流流路に湯水は流れない。人が入浴したとき浴槽上端より溢れて、還流流路に流れ込んだ湯水の量が還流流路の収容量よりオーバーした量は必ず同流路を経て元の浴槽に自動的に戻るのであり、それによって節湯が可能になるものであって、何等の外部エネルギーを必要とせず湯水が還流するものである。

本件判決は以上のような湯水が還流し元の浴槽に戻る現実を否定し且、外部エネルギーなしでは還流しないとの誤った認定をした上、本願発明に陳述していないにも不抱ず動力装置等外部エネルギーを用いているとした点は、本願発明を否定するためのこじつけた誤った主張であり且、その事由は全く詭弁である。斯の如き誤った認定判断による判決には絶対に承服することができないものである。

二 取消事由(2)について

イ 引用考案は湯温を調整するためのものであって還流途中、垢滓を除き浴槽内の湯水を還流するものである。これは動力により浴槽内の湯水を循環させるもので動力装置がなければ絶対に湯水は循環還流しないものである。引用考案は浴槽より溢れ出る湯水はその侭、流出するものであり、節湯はできない。引用考案は浴槽内の湯水を還流流路内を循環させて、その途中に垢滓を除くものであり湯温を調整するものであって浴槽より溢れ出る湯水は浴槽外に放流出するのみで節湯など全くできない。

本願発明は浴槽外に溢れ出た湯水を収容し節湯するものであり引用考案とは全く相違するものであることは明白であり且、引用考案にそれを示唆する何物もないものであり、本件判決は誤った認定判断をしているのである。

ロ 本件判決は「人が入ることにより浴槽の水位が上昇し浴槽の上端から湯水が溢れ出ること及びその場合湯水の上部に浮遊している垢滓が湯水と一緒に流れ出ることは入浴するものが日常経験し認識することがあり、一般常識であるとあるが」

本願発明は浴槽より溢れ出る湯水を、その溢れ出る力を利用して外部エネルギーを用いずに、浴槽の外に還流流路を設けて垢滓を除き節湯するものであって、夥しく放流出する湯水を無駄にせず有効利用することは資源上からも経済上からも必要であり、多大の効果があることは論をまたないものである。

以上本願発明は引用考案及び周知の技術事項に基づいて当業技術者が容易に発明することができたものと認められないから、特許法第二九条第二項の規定に該当せず特許を受けることができるものである。

ハ 東京高等裁判所平成元年(行ケ)第一三七号の昭和六三年審判第一一三九一号審決取消請求事件において平成元年九月一八日第一回準備手続の法廷にて裁判官は「本件発明に対する特許庁の審決の「外部エネルギーを必要とし、動力装置を設けないと還流しない事項は」特許庁が出願人(上告人)の事を思いやって決めた事と思料するので訴状の「本審決を取り消すべき事由」の主な部分について取消してはどうかと勧告を受けたが、それは出願人(上告人)の主張の要旨であり、これらを削除することは訴への意味がなくなると思い主要部分はその侭にし一部支障のない部分のみ訂正して、平成元年九月二八日準備書面を提出した。

本件判決は当初より右のような予断を前提として不当な理由づけをこじつけ作られたものであって、不当な判決である。

ニ なお東京高等裁判所に於ける準備法廷に於いては裁判官、書記官の他一名が陪席しておられた。この陪席されていた一名の方は特許庁関係者であることを後日知りました。若し特許庁の派遣官であるとしたら当事者一方である被上告人の側の人が裁判官と法廷に同席し審議に加わるようなことは失当であり、そのようにしてなされた本件判決は不服である。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例